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日々迷走

雑記

十二国記ワンドロワンライ第4回目

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十二国記ワンドロワンライ第4回目

タイトル「希求」

お題:「私の国」
傾向:ほのぼの時々シリアス
登場人物:陽子、六太
投稿時のものを加筆修正。



――藍を身に纏った少女は言う。
「確かに生まれは芳だけれど、私の国は、ここ。慶よ。私が生まれ変わって、もう一度人生をやり直し始めた国。こんな私を受け入れてくれた国。だから胸を張って慶の民だと言いたいわ」
 
――諸国を流転した少女は言う。
「そうねえ。私も才で過ごした時間の方がうんと長いけれど、やっぱり私の国はここ、慶ね。これまでは自分の意見なんてものはなくて、ただ流されて惰性で生きてきたけれど、ここで自分の意志を貫き通すことを覚えたような気がするわ。ようやく生きているって感じがしたわね。だから私の国はここよ」
 
――全ての理を広く見通す青年は言う。
「お、おいらの国、かあ…。延王や延台輔にいろいろ良くしてもらっているし、その恩に報いたい気持ちもあるけど、やっぱりおいらは巧の人間なんだよなあ」

一度死んだ男は言う――。
「ほ。お前がそれを言うか。無論俺の国は雁。ここだな。この国は俺のものだし、俺はこの国のものだ。金銀財宝などどうとでもくれてやるが、民と土地は絶対に手放してやるもんか。…なに、主旨がずれとるだと。ふん構わん。ほれ、用が済んだのならさっさと行け」
 
放浪癖のある男は言う――。
「やあ奇遇だね。ええ?相変わらず胡散臭いって…。傷つくなあ。なになに。ふうん。面白い事を訊いて回っているんだね。まあ一応形式上、奏と答えておこうか。ああ、勘違いしないでくれ。これだけ多くの国を見て回っているとね、段々と全ての国に愛着が湧いてくるもんだ」


 
 関弓の街中で、頭部に布を巻き付けた少年と、目にも鮮やかな真紅の髪を翻した青年が落ち合う。
 二人とも身に付けるものは簡素な衣服ではあったが、その使われている衣は上等なもので、二人がそれ相応な身分であることは、見る人が見れば一目瞭然であった。
「よう!」
「六太くん」
 軽く手を挙げた少年に青年は駆け寄る。そんな二人の仲の良さそうな様子に、周囲は自然と笑みを零していたが、それは本人達のあずかり知らぬことであった。
「どんな塩梅だ?」
「概ね想像通りの返答といいますか…」
「まあいいや。とりあえず何処かに入ろう」
「そうですね」
 ずれそうになる布を片手で押さえつつ、六太と呼ばれた少年は自分より幾分か背の高い連れ合いを見上げながら零す。
「ところで陽子。もうちっとくだけた喋り方になんねえかな」
「でも、こればかりは」
「周りに不審がられるだろう?」
「…う、善処、する」
「よろしい」
 楽しげに笑う小柄な少年に、陽子と呼ばれた青年は口調を改める。
 現に聞き耳を立てていた周囲は、親しそうに見える割には青年の方が少年に丁寧な言葉を使っており、二人の関係がどのようなものなのか興味深々であったのだ。
 しかし次に出てきた少年の言葉に周囲は仰天する。
「あとよお、たまには女らしい格好してみたらいいのに。折角見られる容姿をしているのに、勿体無い。『でえと』ってやつしてみたいなー」
 そう言われた青年、もとい少女は、胡乱げな視線を少年へと向け、若干恨めしそうに零す。
「…私が、華美に飾り立てるのを苦手としているのを知っていて、そういう事、言う?」
「だってよー」
 その一言で、青年が実は青年ではなく、女性だという事を知り、周囲はますます二人の関係が気になるのだが、二人は会話を続けながらその場を後にするのであった。
 
「陽子。今回は手間掛けさせたな。ありがとう」
「いや、そんな事はない。幾つか嬉しい意見も聞けたし、有意義な時間を過ごすことが出来たと思うから」
 二人連れ立って個室のある適当な店に入り、食事が一通り出されてから六太が切り出した。喋っている間は自然と食事をとる手も止まり、六太はそんな陽子の様子に冷めたら美味しくないだろうと食事を促す。
 しかし元来真面目な気質の陽子は、自分のことは気にしないでいいから話を続けてくれと、適当に食べるからと笑って見せ、話の続きを催促するのであった。
「…そう言ってもらえると、ありがたい」
「何故このように話を訊いて回るような真似を、と訊いてもいいのかな」
「いや、なに。たまには麒麟らしい行動でもしてみようかと、とりあえず馴染みの面子に自分にとっての国ってもんを訊いてみたいなあと」
 笑いながらそう言う六太の真意がどこにあるのか、本当にそれだけなのか陽子が訊くのを躊躇っていると、六太の方から本音を漏らした。
 
「…違う、嘘」
 
 その表情は苦しげで、未だかつて六太のそんな顔つきを見たことがなかった陽子は息をのむ。
「嘘、とは」
「この質問を一番投げ掛けたい人間が他にいるんだ。でも絶対会えない。会いたいけど会えないんだ。会って否定されるのが怖い。もう会えないかもしれない人間なのに。会えるかもってどこかで信じてる自分がいる」
「えん、たい、ほ…」
 先程街中で指摘されたばかりなのに、驚きのあまり呼び方が元に戻ってしまうが、陽子は勿論、六太もそれを気に掛けている余裕はなかった。
「俺の国はここだよって、雁だよって、言ってほしい、のに」
 その声色は若干潤み始めている。しかしその自覚があるのか謝りながら言葉を続ける。
「ごめん、ごめんな…。何言ってんだろ、俺。この時期が近づくと毎年情緒不安定になるんだ」
「その、延王は延台輔が毎年このような状態になる事を知って…?」
「多分気づいてる。でも何も言わないし。俺も絶対に、言いたくない」
「…そう」
 いくら目の前の六太が少年の姿をしていても、陽子にしてみれば大王朝を築いた人物の一人であることには変わりなく、慰めようと軽率に頭を撫でることなど出来ず、ただただ静かに耳を傾けることしか出来なかった。
 暫し沈黙の時が訪れるも、陽子は六太が話し始めるのを静かに待つ。
 どんな慰めの言葉を投げかけても、どんな励ましの言葉を投げかけても、己の立ち入れる領域ではないと悟ったからだ。
 ならば、今自分に出来ることは何なのかと、自問自答する。
 彼は今、何を求めているのか。何を願っているのか。しかし、それを叶えられるのは件の人物のみなのだろうとも思う。
 陽子はその自明の理を胸に抱きながらも、模索するのを止められない。瞳を閉じて世界を遮断し、寄せては返す思考の波と戯れる。
 どれくらい経ったろうか、衣擦れの音と共に、俯いていた六太がのろのろと顔を上げる気配がある。きっと何を言っても正解なんてない。
 そう思い切りをつけて陽子が口を開こうとすれば、
 
「あの…!」
「あのさ」
 
「延台輔からどうぞ」
「や、陽子から言えって。…あと呼び方戻ってるから」
「ああ、すみません。気を付けますね。じゃなくて、六太くんからどうぞ。ええ、ええ。ここはやはり、年長者を敬わないと」
「…お前も言うようになったよなぁ」
「ええ、鍛えられましたから」
 にこやかにそう言う陽子に、六太は苦虫を噛み潰したような表情をするも、次の瞬間には噴き出していた。その他愛のないやり取りで、先程までの重苦しい雰囲気は霧散した。  
 先程とは真逆の軽やかな口調で六太は話し出す。
「な、陽子には親友っているか?」
「親友、ですか。…私の独りよがりでなければ、祥瓊と鈴が親友だと思っています」
 照れくさそうにそう言う陽子の表情を、何か眩しいものでも見るように目を眇め、六太は訥々と口を開く。
「俺にもいるよ。いや、正確にはいた、かな。ただ、今ちょっと行方不明中なんだ、へへっ」
 鼻を擦りながら、何でもないことのようにさらりと爆弾発言をする六太に陽子は口を挟みそうになるも、ぐっと堪える。
「…最初は同情から始まった関係だったかもしれない。同病相憐れむの気持ちもあったかもしれない。傷ついたり、傷つけられたり。いろんな、いろんなことがあった。それでも確かに、俺たちは誰よりも互いのことを解っていた親友だと、そう思う。…いや、思いたい、かな」
 最後の言葉を苦しげに絞り出すように吐露する六太に、陽子は間髪入れずに叫ぶように言葉を吐き出す。
「親友だとかそうじゃないとか、周りが判断するものではないかもしれないけれど、そんな顔をして、そんなことを言うくらい、六太くんはその子のことが大事だったんだろう!?もっと胸を張って、『親友』って言っていいんだ…!」
「へへ…俺、今そんなに変な顔してる?」
「うん…」
「でもな、陽子。お前も相当酷いことになっているぞ」
「…六太くんのが移ったんだよ」
「そか。…へへ」
「ふふ」
 二人して力の抜けた笑みを浮かべ、何がおかしいのかも解らないのに笑っているような状態で、暫くその狭い空間に奇妙な空気が漂っていたが、唐突に六太がぱんと膝を打ち、そのついでと言わんばかりに己の頬を叩く。
「ってえ…」
「六太くん?」
「ん。ちょっと気合い入れ直した」
「そう…?」
 心配げに首を傾げる陽子に、六太は今度こそ心からの笑みを浮かべ、威勢よく応えを返す。
「それにな、約束したんだ」
「約束?」
「そ。あいつが笑って過ごせるような国を作るって。…まあ、その約束をしたのは尚隆とあいつなんだけどさ」
「でも、国に関することならば、六太くんと交わした約束も同義でしょう?」
「だろ!だからな、俺、前を向いて進んでいけるんだ。…時々へこむ時もあるけどさ」
「そう」
 先程までの憂い顔はどこへやら、いきいきとした顔でそう語る六太に、今度は陽子が眩しいものを見るような眼差しで見つめる。
「…微力ながら私にもお手伝いさせてくださいね。そして、そのお友達にこんなにも立派になった雁を見て頂きましょう?」
「いやいや、陽子はまず自分んちとこが最優先だろ」
「それは勿論。ですが、私に出来ること、例えばこうやってお話を聞くだけでもさせて頂けませんか?」
 そこまで言われて、六太は、陽子が「あいつ」の素性は勿論、「あいつ」と延主従にまつわる出来事を何も知らないにもかかわらず、深く追及もせずにここまで話を聞いてくれたことに改めて思い至る。
「へへっ。そこまで言われちゃしょうがないな」
「ええ」
 
「じゃあ、もういっちょ気張りますか!」
 そう言いながら、卓に置かれていた陽子の手を掴むと、六太は椅子から立ち上がる。
「まだどこか回るんですか!?」
 強引に手を引かれ体勢を崩しながらも、扉から出ていこうとする六太の後を律儀に追いかける陽子。
「おう。もっちろん!」
「こうなったら最後までお付き合いいたしますよ」
「だから、陽子。口調」
「ああ、もう…」
 陽子の手を掴みながらずかずかと廊下を歩き、屋外に出た六太は、戸を潜り抜けた瞬間視界に入った青空に向かって、掴んでいない方の手を突き上げながら小さく叫ぶのであった。

 
「――首洗って待ってろよ、更夜!」

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